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犯行状況再現写真、「証拠能力なし」 最高裁が初判断



asahi.com 2005年10月01日17時19分



 捜査官が被害者らの供述をもとに犯行状況を再現させた写真は証拠にできるのか――こんな問題が争われた刑事裁判で、最高裁第二小法廷(滝井繁男裁判長)は「原則として証拠能力はない」との初判断を示した。従来は証拠採用される例が多かったが、最高裁は、こうした再現写真が被害者の供述と同じ意味を持つことを重視。「被告が公判で反証できない供述証拠は採用できない」という刑事裁判の鉄則を再現写真についても適用する立場を明確にした。


 裁判員制度を前に、わかりやすさが重視され、視覚に訴える立証が模索されている。しかし、写真には偏った印象を強く与える危険もあり、厳格な基準を示した形だ。


 問題となったのは、大阪の地下鉄で女性を触ったとして無職男性(24)が大阪府迷惑防止条例違反の罪に問われた事件。被害者が犯人役の警察官を相手に犯行を再現した場面が、写真と説明文によって実況見分調書にまとめられ、検察側から提出された。被告側は証拠採用に反対したが、一、二審判決とも有罪の証拠として採用していた。


 これに対し第二小法廷は9月27日付の決定で、「再現写真も、証拠にするには、供述証拠と同じ条件をクリアする必要がある」と判断。今回の場合は「クリアしておらず、証拠能力はない」として、一、二審の判断は「違法」と断じた。


 刑事裁判には「公判で被告側に反対尋問の機会がない供述証拠は採用できない」との鉄則がある。供述が正確か、うそでないかを確かめる必要があるからだ。


 調書などの供述書面を証拠採用するためには、「供述が信用できる特別の状況がある」などの条件をクリアする必要がある。だが、捜査機関が作成する現場の図面などの実況見分調書は特別に、その条件を満たさなくても採用できるとされてきた。


 では、実況見分調書の中に、被害者の供述に基づく再現シーンの写真が含まれていた場合、同様に採用できるのか。今回はこれが問題になった。


 この場合、実質的には供述調書と同じなのに、厳しい条件をクリアせず脱法的に採用されているという指摘はあった。ただ、弁護側も争うことが少なく、問題が顕在化してこなかった。裁判官、検察、弁護側ともに意識変革を迫られそうだ。


 同小法廷は一方で「この証拠がなくても有罪は認定できる」として二審の罰金40万円の結論は支持。男性の上告を棄却した。



捜査機関が作成した調書については同意が得られない場合について、「特信性」が問題となるが、いわゆる「検面調書」については、「特信性」は問題とならない。


すると今後は、「特信性」をクリアするための要件を捜査機関が考案するか、検察官がこういった資料を作成するようになるのだろうか。



判例 平成17年09月27日 第二小法廷決定 平成17年(あ)第684号 大阪府公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反,器物損壊被告事件


要旨:


 捜査官が被害者や被疑者に被害・犯行状況を再現させた結果を記録した実況見分調書等で,実質上の要証事実が再現されたとおりの犯罪事実の存在であると解される書証の証拠能力


内容:  件名 大阪府公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反,器物損壊被告事件 (最高裁判所 平成17年(あ)第684号 平成17年09月27日 第二小法廷決定 棄却)


 原審 大阪高等裁判所 (平成16年(う)第1702号)


主    文


       本件上告を棄却する。


         


理    由


 弁護人西嶋勝彦の上告趣意は,単なる法令違反,事実誤認,量刑不当の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。


 なお,所論にかんがみ職権で判断する。


 1 記録によれば,以下の事実が認められる。


 (1) 本件の第1審公判において,検察官は,第1審判決判示第1の事実に関し,立証趣旨を「被害再現状況」とする実況見分調書(第1審検第2号証。以下「本件実況見分調書」という。)及び立証趣旨を「犯行再現状況」とする写真撮影報告書(第1審検第13号証。以下「本件写真撮影報告書」という。)の証拠調べを請求した。


 (2) 本件実況見分調書は,警察署の通路において,長いすの上に被害者と犯人役の女性警察官が並んで座り,被害者が電車内で隣に座った犯人から痴漢の被害を受けた状況を再現し,これを別の警察官が見分し,写真撮影するなどして記録したものである。同調書には,被害者の説明に沿って被害者と犯人役警察官の姿勢・動作等を順次撮影した写真12葉が,各説明文付きで添付されている。うち写真8葉の説明文には,被害者の被害状況についての供述が録取されている。


 本件写真撮影報告書は,警察署の取調室内において,並べて置いた2脚のパイプいすの一方に被告人が,他方に被害者役の男性警察官が座り,被告人が犯行状況を再現し,これを別の警察官が写真撮影するなどして,記録したものである。同調書には,被告人の説明に沿って被告人と被害者役警察官の姿勢・動作等を順次撮影した写真10葉が,各説明文付きで添付されている。うち写真6葉の説明文には,被告人の犯行状況についての供述が録取されている。 


 (3) 弁護人は,本件実況見分調書及び本件写真撮影報告書(以下併せて「本件両書証」という。)について,いずれも証拠とすることに不同意との意見を述べ,両書証の共通の作成者である警察官の証人尋問が実施された。同証人尋問終了後,検察官は,本件両書証につき,いずれも「刑訴法321条3項により取り調べられたい。」旨の意見を述べ,これに対し弁護人はいずれも「異議あり。」と述べたが,裁判所は,これらを証拠として採用して取り調べた。


 第1審判決は,本件両書証をいずれも証拠の標目欄に掲げており,これらを有罪認定の証拠にしたと認められる。また,原判決は,事実誤認の控訴趣意に対し,「証拠によれば,一審判決第1の事実を優に認めることができる。」と判示しており,前記控訴趣意に関し本件両書証も含めた証拠を判断の資料にしたと認められる。


 2 前記認定事実によれば,本件両書証は,捜査官が,被害者や被疑者の供述内容を明確にすることを主たる目的にして,これらの者に被害・犯行状況について再現させた結果を記録したものと認められ,立証趣旨が「被害再現状況」,「犯行再現状況」とされていても,実質においては,再現されたとおりの犯罪事実の存在が要証事実になるものと解される。このような内容の実況見分調書や写真撮影報告書等の証拠能力については,刑訴法326条の同意が得られない場合には,同法321条3項所定の要件を満たす必要があることはもとより,再現者の供述の録取部分及び写真については,再現者が被告人以外の者である場合には同法321条1項2号ないし3号所定の,被告人である場合には同法322条1項所定の要件を満たす必要があるというべきである。もっとも,写真については,撮影,現像等の記録の過程が機械的操作によってなされることから前記各要件のうち再現者の署名押印は不要と解される。


 本件両書証は,いずれも刑訴法321条3項所定の要件は満たしているものの,各再現者の供述録取部分については,いずれも再現者の署名押印を欠くため,その余の要件を検討するまでもなく証拠能力を有しない。また,本件写真撮影報告書中の写真は,記録上被告人が任意に犯行再現を行ったと認められるから,証拠能力を有するが,本件実況見分調書中の写真は,署名押印を除く刑訴法321条1項3号所定の要件を満たしていないから,証拠能力を有しない。


 そうすると,第1審裁判所の訴訟手続には,上記の証拠能力を欠く部分を含む本件両書証の全体を証拠として採用し,これを有罪認定の証拠としたという点に違法があり,原裁判所の訴訟手続には,そのような証拠を事実誤認の控訴趣意についての判断資料にしたという点に違法があることになる。


 しかし,本件については,前記の証拠能力を欠く部分を除いても,その余の証拠によって第1審判決判示第1の事実を優に認めることができるから,前記違法は,判決の結論に影響を及ぼすものではない。


 よって,刑訴法414条,386条1項3号,181条1項ただし書により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。


(裁判長裁判官 滝井繁男 裁判官 津野 修 裁判官 今井 功 裁判官 中川了滋 裁判官 古田佑紀)





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