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採石権侵害の不法行為を理由とする損害賠償請求事件において,損害の発生を前提としながら,民訴法248条の適用について考慮することなく,損害の額を算定することができないとして請求を棄却した原審の判断に違法があるとされた事例

事件番号 平成18(受)265
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成20年06月10日
法廷名 最高裁判所第三小法廷
裁判種別 判決
結果 その他
判例集巻・号・頁

原審裁判所名 福岡高等裁判所
原審事件番号 平成12(ネ)395
原審裁判年月日 平成17年10月14日

判示事項
裁判要旨 採石権侵害の不法行為を理由とする損害賠償請求事件において,損害の発生を前提としながら,民訴法248条の適用について考慮することなく,損害の額を算定することができないとして請求を棄却した原審の判断に違法があるとされた事例
主文
1 原判決中次の部分を破棄する。
(1) 被上告人Y2に対する別紙物件目録1,2記載の各土地の採石権侵害に基づく損害賠償請求に関する部分(2) 被上告人Y1に対する別紙物件目録1記載の土地の採石権侵害に基づく損害賠償請求に関する部分2 前項の部分につき,本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
3 上告人のその余の上告を棄却する。
4 前項に関する上告費用は上告人の負担とする。
理由
第1 事案の概要1 本件は,採石業を営む上告人が,被上告人Y1(以下「被上告会社」という。)の採石行為によって上告人の採石権が侵害されたので,被上告会社及び被上告会社の代表者として上記採石行為を指示した被上告人Y2は連帯して不法行為責任を負うと主張して,被上告人らに対し,不法行為に基づく損害賠償を求める事案である。
2 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1) 上告人及び被上告会社は,いずれも採石業を目的とする会社であり,被上告人Y2は,被上告会社の代表取締役である。
(2) 上告人は,平成7年7月20日当時,別紙物件目録1,2記載の各土地(以下,順に「本件土地1」,「本件土地2」といい,併せて「本件各土地」という。)につき採石権を有していた。
(3) 被上告会社は,平成7年7月20日,ダイナマイトによる発破を掛けて本件各土地の岩石を崩落させるなどして,同月27日ころまでの間に,本件各土地の岩石を採石した。
(4) 上告人は,平成7年7月27日,長崎地方裁判所壱岐支部に対し,被上告会社を債務者として,本件各土地における採石の禁止等を求める仮処分を申し立てた。これに対し,被上告会社は,上記採石行為をした本件各土地は自己が採石権を有する土地であり,上記採石行為は上告人の採石権を侵害しない旨反論した。
上記仮処分命令申立事件において,同年8月8日,次の内容の和解が成立した(以下,この和解を「本件和解」という。)。
ア別紙物件目録記載の山林396(公簿面積。以下「本件山林」という。)のうち,本件土地2を含む北側の一部(以下「甲地」という。)については上告人に採石権があり,本件山林のうち,甲地に接する本件土地1を含む南側の一部(以下「乙地」という。)については被上告会社に採石権があることを確認する。
イただし,上記アの合意は,本件和解時までに発生した採石権の侵害等に基づく互いの損害についての賠償請求を妨げるものではないことを確認する。
(5) 被上告会社は,本件和解の後である平成8年4月2日,本件土地2において採石を行った。
3 上告人は,被上告会社が,被上告人Y2の指示に基づいて,本件和解前の平成7年7月20日ころ本件各土地において採石をし,本件和解後の同年9月ころから平成8年4月ころまでの間に本件土地2並びにいずれも上告人が採石権を有する原判決別紙図面6記載のCと表示された青色部分の土地及び同図面記載のDと表示された赤色部分の土地において採石をしたと主張している。
4 原審は,上告人の被上告会社に対する損害賠償請求のうち,本件土地2の採石権侵害に基づく請求につき,本件和解前及び本件和解後の採石行為に基づく損害として合計547万0320円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容したが,上告人の被上告会社に対するその余の請求及び被上告人Y2に対する請求をいずれも棄却した。
第2 上告代理人塙信一の上告受理申立て理由第1(ただし,排除されたものを除く。)について。
1 原審は,次のとおり判断して,上告人の被上告人Y2に対する本件各土地の採石権侵害に基づく損害賠償請求は理由がないとした。
上告人の被上告人Y2に対する上記請求は,被上告人Y2が,本件和解前においては,上告人が本件各土地について採石権を有していることを知りながら,また,本件和解後においては,上告人が本件土地2について採石権を有していることを知りながら,被上告会社の代表者として,同会社の従業員らに対し,本件各土地又は本件土地2における採石行為を指示してこれを行わせたことを請求原因とするものであるところ,仮に,上告人主張の上記請求原因事実が認められるとしても,被上告人Y2が,被上告会社と独立して,上記採石行為により上告人に生じた損害を賠償すべき不法行為責任を負う根拠にはならない。
2 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
上告人の被上告人Y2に対する前記請求原因事実は,被上告人Y2が,本件各土地(本件和解後は本件土地2のみ)における採石行為は上告人の採石権を侵害するものであることを知りながら,被上告会社の代表者として同会社の従業員らに対して上記採石行為を指示してこれを行わせたというものであるから,この事実が認められれば,被上告人Y について不法行2 為が成立することは明らかであり,上記採石行為について被上告会社が不法行為責任を負うとしても,被上告人Y2が不法行為に基づく損害賠償責任を免れる理由はない(最高裁昭和48年(オ)第930号同49年2月28日第一小法廷判決・裁判集民事111号235頁参照)。以上と異なる見解に立ち,上告人の被上告人Y2に対する本件各土地の採石権侵害に基づく損害賠償請求を棄却した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,原判決のうち上告人の被上告人Y2に対する本件各土地の採石権侵害に基づく損害賠償請求に関する部分は破棄を免れない。論旨は理由がある。
第3 上告代理人塙信一の上告受理申立て理由第2について。
1 原審は,次のとおり判断して,上告人の被上告会社に対する本件土地1の採石権侵害に基づく損害賠償請求を棄却した。
被上告会社が本件土地1において本件和解前の平成7年7月20日から同月27日ころまでの間に採石した量については,本件和解後,被上告会社が本件土地1を含む乙地につき採石権を取得し,実際に採石を行っており,被上告会社が本件和解前に採石した量と,本件和解後に採石した量とを区別し得る明確な基準を見いだすことができない。したがって,本件和解前の本件土地1についての被上告会社による採石権侵害に基づく上告人の損害の額はこれを算定することができない。
2 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
前記事実関係によれば,上告人は本件和解前には本件土地1についても採石権を有していたところ,被上告会社は,本件和解前の平成7年7月20日から同月27日ころまでの間に,本件土地1の岩石を採石したというのであるから,上記採石行為により上告人に損害が発生したことは明らかである。そして,被上告会社が上記採石行為により本件土地1において採石した量と,本件和解後に被上告会社が採石権に基づき同土地において採石した量とを明確に区別することができず,損害額の立証が極めて困難であったとしても,民訴法248条により,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づいて,相当な損害額が認定されなければならない。そうすると,被上告会社の上記採石行為によって上告人に損害が発生したことを前提としながら,それにより生じた損害の額を算定することができないとして,上告人の本件土地1の採石権侵害に基づく損害賠償請求を棄却した原審の上記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は,上記の趣旨をいうものとして理由があり,原判決のうち上告人の被上告会社に対する本件土地1の採石権侵害に基づく損害賠償請求に関する部分は破棄を免れない。
第4 結論以上のとおりであるから,原判決中,被上告人Y2に対する本件各土地の採石権侵害に基づく損害賠償請求に関する部分及び被上告会社に対する本件土地1の採石権侵害に基づく損害賠償請求に関する部分を破棄し,これらの請求に関する部分につき,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
なお,その余の上告については,上告受理申立て理由が上告受理の決定において排除されたので,棄却することとする。
よって, 裁判官 全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長 裁判官 那須弘平 裁判官 藤田宙靖 裁判官 堀籠幸男 裁判官 田原睦夫 裁判官 近藤崇晴)
別紙物件目録1 壱岐郡芦辺町(現壱岐市芦辺町)a字b396(公簿面積)のうち,原判決別紙図面5記載のK.50,J50,B53,B52,B51,B50,J02,J.11,K.01,K.50の各点を順次直線で結んだ範囲内の土地2 上記山林396(公簿面積)のうち,原判決別紙図面5記載のK.50,B59,B58,B57,B56,B55,B54,J50,K.50の各点を順次直線で結んだ範囲内の土地
| 民事 | 09:37 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |

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