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会社分割に伴いゴルフ場の事業を承継した会社が預託金会員制のゴルフクラブの名称を引き続き使用している場合における上記会社の預託金返還義務の有無(積極)

事件番号 平成18(受)890
事件名 預託金返還請求事件
裁判年月日 平成20年06月10日
法廷名 最高裁判所第三小法廷
裁判種別 判決
結果 破棄自判
判例集巻・号・頁

原審裁判所名 名古屋高等裁判所
原審事件番号 平成17(ネ)682
原審裁判年月日 平成18年02月02日

判示事項
裁判要旨 会社分割に伴いゴルフ場の事業を承継した会社が預託金会員制のゴルフクラブの名称を引き続き使用している場合における上記会社の預託金返還義務の有無(積極)
主文
1 原判決を破棄し,第1審判決中被上告人に関する部分を取り消す。
2 被上告人は,上告人に対し,3500万円及びこれに対する平成16年5月26日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3 訴訟の総費用は,被上告人の負担とする。
理由
上告代理人中村正典,同比護望,同服部文彦の上告受理申立て理由について。
1 本件は,預託金会員制のゴルフクラブの会員である上告人が,同クラブの名称を用いてゴルフ場を経営していた会社の会社分割によりその事業を承継し引き続き同クラブの名称を使用している被上告人に対し,会社法22条1項が類推適用されると主張して,預託金の返還等を求める事案である。上告人は,会社法施行前は,平成17年法律第87号による改正前の商法(以下「旧商法」という。)26条1項が類推適用される旨主張していたが,会社法の制定により,会社間における事業の譲渡に関しては会社法に同項と同内容の規定である22条1項が設けられ,会社法の施行前に生じた事項にも適用されるものとされた(同法附則2項)ので,同法施行後は同法22条1項の類推適用を主張するものと解される(以下,旧商法26条1項も含む趣旨で会社法22条1項ということがある。)。
2 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1) Aは,「Bゴルフ倶楽部」という名称の預託金会員制のゴルフクラブ(以下「本件クラブ」という。)が設けられているゴルフ場(以下「本件ゴルフ場」という。)を経営していた。
(2) 上告人は,平成7年10月7日,Aとの間で,本件クラブの法人正会員となる旨の会員契約を締結し,Aに対し,会員資格保証金3500万円を預託した(以下,この預託金を「本件預託金」という。)。
(3) 本件預託金の据置期間は,本件クラブの会則により,本件ゴルフ場が正式開場した日から起算して満5年とされていたが,平成11年5月18日,同会則の改正により,同日から起算して満5年(平成16年5月18日まで)に延長された。
(4) 被上告人は,平成15年1月8日,Aの会社分割(旧商法373条に基づくもの。以下「本件会社分割」という。)により,ゴルフ場の経営等を目的とする会社として設立され,Aから本件ゴルフ場の事業を承継したが,本件クラブの会員に対する預託金返還債務は承継しなかった。
(5) 被上告人は,本件会社分割後,Aが本件会社分割前に本件ゴルフ場の事業主体を表示する名称として用いていた「Bゴルフ倶楽部」という名称を引き続き使用し,本件ゴルフ場を経営している。
(6) A及び被上告人は,平成15年4月15日ころ,上告人を含む本件クラブの会員に対し,「お願い書」と題する書面(以下「本件書面」という。)を送付した。本件書面の内容は,本件会社分割により被上告人が本件ゴルフ場を経営する会社として設立されたこと及び本件クラブの会員権を被上告人発行の株式へ転換することにより,本件クラブを被上告人経営の株主会員制のゴルフクラブに改革することを伝え,本件クラブの会員権を上記株式に転換するよう依頼するというものであった。
(7) 上告人は,平成16年5月25日,被上告人に対し,本件クラブから退会する旨の意思表示をするとともに,本件預託金の返還を求めた。
3 上告人は,被上告人に対し,本件会社分割により本件ゴルフ場の事業を承継し本件クラブの名称を引き続き使用している被上告人は,会社法22条1項の類推適用により,本件預託金の返還義務を負うべきであると主張して,本件預託金3500万円及びこれに対する退会の意思表示をした日の翌日である平成16年5月26日から支払済みまで商事法定利率による遅延損害金の支払を求め,これに対して,被上告人は,会社分割の場合に会社法22条1項が類推適用される余地はなく,仮にこれが類推適用されるとしても,本件においては,被上告人が本件クラブの会員に対して本件書面を送付したことから,類推適用を否定すべき特段の事情があると主張して,上告人の請求を争っている。
4 原審は,次のとおり判断して,上告人の請求を棄却すべきものとした。なお,会社法は,原判決言渡し後に施行された。
(1) 会社分割においても,営業譲渡に関する旧商法26条1項が類推適用される余地のあることは一概に否定することはできない。
(2) しかし,本件においては,上記2(6)の事実から,本件会社分割により被上告人が設立され,被上告人が本件クラブの会員権を被上告人発行の株式に転換した株主会員制のゴルフクラブとして本件ゴルフ場を経営するところとなったことは,上告人を含む本件クラブの会員に周知されているものと認められるから,同会員において,同一の営業主体による営業が継続していると信じたり,営業主体の変更があったけれども被上告人により債務の引受けがされたと信じたりすることが相当ではない特段の事情が認められる。したがって,被上告人は,上告人に対し,旧商法26条1項の類推適用によって本件預託金の返還義務を負うものではない。
5 しかしながら,原審の上記4(2)の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 預託金会員制のゴルフクラブの名称がゴルフ場の事業主体を表示するものとして用いられている場合において,ゴルフ場の事業が譲渡され,譲渡会社が用いていたゴルフクラブの名称を譲受会社が引き続き使用しているときには,譲受会社が譲受後遅滞なく当該ゴルフクラブの会員によるゴルフ場施設の優先的利用を拒否したなどの特段の事情がない限り,譲受会社は,会社法22条1項の類推適用により,当該ゴルフクラブの会員が譲渡会社に交付した預託金の返還義務を負うものと解するのが相当であるところ(最高裁平成14年(受)第399号同16年2月20日第二小法廷判決・民集58巻2号367頁参照),このことは,ゴルフ場の事業が譲渡された場合だけではなく,会社分割に伴いゴルフ場の事業が他の会社又は設立会社に承継された場合にも同様に妥当するというべきである。
なぜなら,会社分割に伴いゴルフ場の事業が他の会社又は設立会社に承継される場合,法律行為によって事業の全部又は一部が別の権利義務の主体に承継されるという点においては,事業の譲渡と異なるところはなく,事業主体を表示するものとして用いられていたゴルフクラブの名称が事業を承継した会社によって引き続き使用されているときには,上記のような特段の事情のない限り,ゴルフクラブの会員において,同一事業主体による事業が継続しているものと信じたり,事業主体の変更があったけれども当該事業によって生じた債務については事業を承継した会社に承継されたと信じたりすることは無理からぬものというべきであるからである。なお,会社分割においては,承継される債権債務等が記載された分割計画書又は分割契約書が一定期間本店に備え置かれることとなっているが(本件会社分割に適用される旧商法においては,同法374条2項5号,374条の2第1項1号,374条の17第2項5号,374条の18第1項1号。),ゴルフクラブの会員が本店に備え置かれた分割計画書や分割契約書を閲覧することを一般に期待することはできないので,上記判断は左右されない。
前記事実関係によれば,被上告人は,本件会社分割によりAから本件ゴルフ場の事業を承継し,Aが事業主体を表示する名称として用いていた本件クラブの名称を引き続き使用しているというのであるから,被上告人が会社分割後遅滞なく本件ゴルフクラブの会員によるゴルフ場施設の優先的利用を拒否したなどの特段の事情がない限り,会社法22条1項の類推適用により,本件クラブの会員である上告人に対し,上告人がAに預託した本件預託金の返還義務を負うものというべきである。
(2) そして,前記事実関係によれば,本件会社分割後にA及び被上告人から上告人を含む本件クラブの会員に対して送付された本件書面の内容は,単に,本件会社分割により被上告人が本件ゴルフ場を経営する会社として設立されたこと及び本件クラブの会員権を被上告人発行の株式へ転換することにより本件クラブを被上告人経営の株主会員制のゴルフクラブに改革することを伝え,本件クラブの会員権を被上告人発行の株式に転換するよう依頼するというものであったというのであり,この内容からは,被上告人が,上記株式への転換に応じない会員には本件ゴルフ場施設の優先的利用を認めないなどAが従前の会員に対して負っていた義務を引き継がなかったことを明らかにしたものと解することはできない。それゆえ,本件書面の送付をもって,上記特段の事情があるということはできず,他に上記特段の事情といえるようなものがあることはうかがわれない。
したがって,被上告人は,上告人に対し,本件預託金の返還義務を負うものというべきである。
6 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,上記説示したところによれば,上告人の請求には理由があるから,第1審判決中被上告人に関する部分を取り消して,同請求を認容すべきである。
よって, 裁判官 全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお, 裁判官 田原睦夫の補足意見, 裁判官 那須弘平の意見がある。
 裁判官 田原睦夫の補足意見は,次のとおりである。
私は多数意見に賛成するものであるが,本件は,原審の認定する事実関係及び本件会社分割に当たり,被上告人及びA(以下「被上告人ら」という。)から上告人を含む本件クラブの会員に対して送付された本件書面の内容からして,被上告人につき会社法22条1項の類推適用を否定すべき「特段の事情」は到底認められない事案であると考えるので,以下にその理由を補足する。
1 原審の認定した事実関係によれば,被上告人は,多数意見2(4)記載のとおり,本件会社分割により設立され,Aから本件ゴルフ場の事業を承継したが,本件クラブの会員に対する預託金返還債務は承継しなかった。また,被上告人は,発行する株式をAに割り当てた(ちなみに,本件書面の記載によれば,被上告人の発行株式の総数は4412株で,内1242株が優先株,124株が無議決権株,残り3046株が普通株であり,優先株には「Bゴルフ倶楽部」の正会員権が,無議決権株には平日会員権がそれぞれ付与される。)。
そして,被上告人らは,多数意見2(6)に記載のとおり,被上告人の設立から3箇月以上経過した平成15年4月15日ころに,上告人を含む本件クラブ会員に対して本件書面を送付した。なお,被上告人らが本件クラブ会員に対し,本件会社分割及びそれに伴う本件クラブ会員の権利・義務関係の変動について,会員説明会を開催して説明する等,本件書面の送付以外の方法により,それらの点について周知を図ったとの事実は,当事者から主張されていない。
2 上告人を含む本件クラブ会員に対して送付された本件書面の内容は,多数意見2(6)に記載のとおり,本件会社分割により被上告人が本件ゴルフ場を経営する会社として設立されたこと及び本件クラブの会員権を被上告人発行の株式へ転換することにより,株主会員制のゴルフクラブに改革するので,本件クラブの会員権を上記株式に転換するよう依頼するものであるが,本件書面の記載内容を更に詳しくみると,以下のとおりの問題点が認められる。
(1) 本件会社分割により被上告人が設立されたことは記載されているが,会社分割とは法的にどのような意味を有するものかについて,一般人が理解できるような説明は記載されていない。
(2) 上記のとおり,本件会社分割により,被上告人はAから本件クラブの会員に対する預託金返還債務は承継しなかったが,その事実は明示されていない。かえって,被上告人がAから預託金返還債務を承継し,その債務につき,被上告人の株式に転換するとの誤解を与えかねない表現すら認められる。
(3) 「預託金証書を優先株(正会員権2口)に転換します」との記載がある。
本件当時,預託金会員制のゴルフクラブにおいて,会員からの退会申出に伴う預託金の返還の求めに応じることが困難になった際に,会員権を複数口に分割するとの方法がとられることがあった。これは,会員は会員権を1口所有しておればゴルフ場施設の優先的利用権を保持することができ,他方,分割により増加した残余の会員権を市場で売却することにより,預託金の一部を換価をすることができるところから,即時に預託金の返還を受けられない会員の不満の一部を抑えることができることから採られた手法であって,本件当時,このことはゴルフ業界では周知の事実であったが,上記の「優先株2株(正会員権2口)」への転換は,上記の会員権の分割を想起させる記載である。
(4) 本件書面の本文中には,預託金債権者が株式転換に応じない場合の処遇については,一切記載されていない。
(5) 本件書面に添付されている平成15年4月15日改定・施行された「Bゴルフ倶楽部」の会則26条には,改正されるまでの会則により会員である者は,優先株式1株を取得して会員になるまでの間,改正されるまでの会則により会員の資格を有する旨規定されている。
3 以上のとおり,本件会社分割に関する本件クラブ会員に対する唯一の告知手段たる本件書面の記載内容は,被上告人が本件クラブの会員に対する預託金返還債務を承継しないことを告知する内容としては,余りに不十分であって,その点のみからしても上記「特段の事情」の存在をうかがわせるに足りる書面とは言えないものというべきである。
また,一般に預託金会員制のゴルフクラブの会員の地位は,ゴルフ場施設の優先的利用権,預託金返還請求権,年会費支払義務をその主要な内容とする契約上の地位であると解されていて(最高裁昭和49年(オ)第246号同50年7月25日第三小法廷判決・民集29巻6号1147頁,最高裁平成6年(オ)第1593号同9年3月25日第三小法廷判決・民集51巻3号1609頁参照),かかる契約の性質からして,原則として,ゴルフ場施設の優先的利用権と預託金返還請求権とが分離して別々の主体に帰属することはないと解されるところ,上記のとおり,被上告人は,本件クラブ会員にかかる預託金債権を株式に転換していない会員の「Bゴルフ倶楽部」の会員としての地位について,本件会社分割に伴い改正された会則において,「改正されるまでの会則により会員の資格を有する」と定めているのであって,改正されるまでの会員であった上告人についても,被上告人の経営する本件ゴルフ場の会員としての地位を認めているのである。この点からしても,本件において,上記「特段の事情」が存しないことは明らかである。
 裁判官 那須弘平の意見は,次のとおりである。
1 私も,多数意見の結論に賛成であり,理由のうち,会社分割に伴う事業の承継によるゴルフクラブの名称の継続使用の場合に,特段の事情がない限り,会社法22条1項が類推適用されるべきことについても意見を同じくするものである。
しかしながら,多数意見が,「お願い書」と題する書面(本件書面)につき「被上告人が上記株式への転換に応じない会員には本件ゴルフ場施設の優先的利用を認めないなどAが従前の会員に対して負っていた義務を引き継がなかったことを明らかにしたものと解することはできない」と指摘し,これをもって特段の事情が存在しない根拠としている点については同調できない。
2 多数意見の上記指摘は,前掲平成16年2月20日第二小法廷判決に同様の趣旨の記載があることを受けたものであるが,同判決は旧商法26条2項(会社法22条2項)において,同条1項の適用が排除される場合として,「債務を弁済する責任を負わない」旨の登記か,あるいは同様な趣旨の通知がされた場合を挙げていることを踏まえ,ゴルフ場施設の優先的利用の拒否があれば,施設利用権と密接な関係を有する預託金返還義務についても拒否があったと理解するのが一般的であることをも考慮して,ゴルフ場施設の優先的利用の拒否を例として挙げたにすぎず,これを限定する趣旨のものでないことは文言上からも明らかである。
そして,同判決はゴルフ場の営業の譲受人が従前と同じゴルフクラブの名称を用いている場合に債務の引受けをしたときと同様の責任を負うべきかどうかだけが問題とされた(預託金返還義務を引き受けない趣旨の通知が送付される等の事実がなかった)事案であるのに対し,本件は被上告人がゴルフ場施設の優先的利用の拒否をしていないだけでなく,逆に上告人を含む会員に積極的に施設の利用をしてもらうことを前提として株主会員化を申し出ていた事案である点に特徴があり,両者は事案を異にするものである。
したがって,本件においては,上記最高裁判決が例示する優先的利用の拒否があったかどうかを基準として特段の事情の有無を判断するのでは理由付けとして十分でなく,適切でもない。
3 被上告人は本件書面において,預託金会員権を被上告人発行の株式へ転換することにより本件クラブを株主会員制ゴルフクラブに改めることを提言していたが,この提言は,会員が株式を取得する反面として預託金返還請求権を失うことを意味するものであった。そして,同提言は,株式への転換を拒む会員に対して被上告人からの預託金返還は予定されていないことをも黙示的に示すものであったと解される(本件書面中に被上告人からの預託金返還の可能性を示唆する文言は存在しない。もしその可能性を残す趣旨のものであったとしたら,当時のゴルフ会員権を取り巻く状況等から見て,株式転換よりも預託金返還の途を選んだ会員が大半を占めたはずであるが,そのような事態が生じた形跡もない。)。したがって,本件では,被上告人から預託金返還義務を負わないことの表明があったか,少なくとも会員がこのことを容易に理解できる状況が存在したものと認めることができる。そうすると,本件書類の送付が会社法22条2項後段の「債務を弁済する責任を負わない」旨の通知に該当する可能性を否定できず,そうでなくても同条1項の類推適用を否定すべき特段の事情に当たる事実があったと認めるべきであると考える。
4 もっとも,本件では,会社の分割及びこれに伴う事業の承継が平成15年1月8日であったのに対し,本件書類の送付は同年4月15日ころであったというのであり,この間3か月以上が経過している。そうすると,本件における株主会員化の枠組みを作る作業の難しさを考慮しても,この長さは正当な又は合理的な遅滞の範囲内に収まっていたとはいい難く,本件書面の送付はこの点で「遅滞なく」行われたものとはいえないことが明らかであるから,会社法22条2項の要件を満たす通知ないしこれに準ずべき特段の事情があったとまではいえないと考える。したがって,私も,結論において,原判決を破棄し第1審判決中被上告人に関する部分を取り消して上告人の請求を認容すべきものとする多数意見に賛成であるが,その理由については,上述の限度で異なる意見を有するものである。
(裁判長 裁判官 藤田宙靖 裁判官 堀籠幸男 裁判官 那須弘平 裁判官 田原睦夫 裁判官 近藤崇晴)
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