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前訴において1個の債権の一部についてのみ判決を求める旨が明示されていたとして,前訴の確定判決の既判力が当該債権の他の部分を請求する後訴に及ばないとされた事例。

事件番号 平成19(受)1985。
事件名 損害賠償請求事件。
裁判年月日 平成20年07月10日。
法廷名 最高裁判所第一小法廷。
裁判種別 判決。
結果 破棄差戻し。
判例集巻・号・頁 。
原審裁判所名 福岡高等裁判所 宮崎支部 。
原審事件番号 平成19(ネ)95。
原審裁判年月日 平成19年09月28日。
判示事項 。
裁判要旨 前訴において1個の債権の一部についてのみ判決を求める旨が明示されていたとして,前訴の確定判決の既判力が当該債権の他の部分を請求する後訴に及ばないとされた事例。
主文
原判決を破棄する。
本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人藤枝紘一郎の上告受理申立て理由について。
1 本件は,上告人らの所有する土地上に植栽された樹木について,被上告人の申立てに基づき仮差押命令が発令され,その執行がされたことについて,上告人らが,上記仮差押命令の申立ては違法なものであり,上記仮差押命令の執行により,鹿児島県による買収が予定されていた上記土地を更地にすることができず,そのために上記土地に対する同県からの買収金(以下「本件買収金」という。)が本来支払われるべき時期よりも遅れて支払われることとなったとして,不法行為に基づき,被上告人に対し,本件買収金(上告人X1につき1565万9328円,上告人X2につき1517万9664円)に対する上記仮差押命令の正本が上告人らに送達された平成16年12月15日から,上記仮差押命令の執行が取り消され,上記樹木が撤去されて本件買収金が上告人らに支払われる見込みが生じた平成19年6月30日まで,民法所定の年5分の割合による遅延損害金相当額の損害(上告人X1につき199万0665円,上告人X2につき192万9688円)の賠償を求める事案である。
2 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1) 被上告人は,平成12年4月10日,上告人X2との間で,同上告人所有の第1審判決別紙物件目録記載Bの各土地(以下,併せて「B土地」という。)を賃借する旨の賃貸借契約を締結し,さらに,同月12日,aとの間で,同人所有の上記物件目録記載Aの1の土地(以下「A1土地」という。)ほか1筆の土地及びb所有の上記物件目録記載Aの2の土地(以下「A2土地」という。)を賃借する旨の賃貸借契約を締結した(以下,これらの各賃貸借契約を併せて「本件賃貸借契約」という。)。その当時,上記各土地は,高速道路の取付道路用地として,鹿児島県による買収が予定されていたが,被上告人は,上記各土地上に樹木(シマトネリコ)を植栽した。
(2) 平成13年12月14日,aはA1土地を,bはA2土地を,それぞれ上告人X に贈与し,A1土地及びA21 土地について,同上告人に対する所有権移転登記がされた。
(3) 上告人らは,本件賃貸借契約は無効であるなどと主張して,被上告人に対し,A1土地,A2土地及びB土地(以下,これらを併せて「本件土地」という。)の所有権に基づき,本件土地上に植栽された上記樹木(以下「本件樹木」という。)の撤去及び本件土地の明渡しを求める訴訟を提起した。同訴訟について。
は,平成16年10月6日,本件賃貸借契約は,農地法所定の許可を受けていないから無効であるが,本件樹木は,民法242条本文の規定により本件土地に付合し,本件土地の所有者である各上告人に帰属したとして,上告人らの請求のうち本件土地の明渡し請求を認容し,本件樹木の撤去請求を棄却する旨の第1審判決が言い渡され,この判決はそのころ確定した。
(4) 被上告人は,平成16年12月8日,上記付合によって損失を受けたとして,民法248条による償金請求権(以下「本件償金請求権」という。)を被保全権利として,本件樹木について各上告人をそれぞれ債務者とする仮差押命令の申立てをし,同月10日,各仮差押命令を得て,その執行をした(以下,この命令を併せて「本件仮差押命令」といい,この執行を併せて「本件仮差押執行」という。)。
(5) 上告人らは,本件仮差押執行により,本件樹木を撤去することができなくなり,本件土地の買収手続を進めることもできなくなったため,平成16年12月21日,被上告人を相手方として,本件仮差押命令につき本案の起訴命令を申し立て,同日,被上告人に対し,本案の起訴命令が発せられた。
(6) 上記起訴命令を受けて,被上告人は,平成17年1月21日,本件償金請求権に基づき,上告人らに対して,合計約4万本の本件樹木に係る各償金の支払を求める訴訟(以下「前事件本訴」という。)を提起した。被上告人は,本件仮差押命令の申立てに先立ち,上告人らに対し,それぞれ約5000万円の償金の支払を請求していたが,前事件本訴の第1審において請求した償金の額は,上告人X1に対しては1億5852万8306円,上告人X2に対しては1億4147万1693円であった。これに対し,上告人らは,同年5月19日,本件償金請求権は存在せず,本件仮差押命令の申立ては違法であると主張し,それぞれ,被上告人に対し,不法行為に基づく損害賠償として,本案の起訴命令の申立て及び前事件本訴の応訴に要した弁護士費用相当額250万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める反訴(以下「前事件反訴」という。)を提起した。
(7) 前事件については,平成17年10月27日,_召頬楫鐔金請求権が発生するとしても,被上告人は,本件土地が道路用地として鹿児島県により買収される予定であることを知り,補償金目当てに,上告人X2やa,bには絶対に迷惑をかけないと言って本件賃貸借契約を締結して本件樹木を植栽し,補償金が得られないと知るや一転して巨額の償金請求を行うなどしており,本件償金請求権の行使は権利の濫用であるとして,被上告人の本訴請求を棄却し,∨楫鐔金請求権の発生自体は認められる可能性があることなどに照らし,本件仮差押命令の申立ては違法性を欠くとして,上告人らの反訴請求も棄却する旨の第1審判決が言い渡された。
さらに,平成18年5月31日に言い渡された前事件の控訴審判決は,被上告人の本訴請求については,上記,汎瓜櫃糧獣任鬚掘ぞ綛霓佑蕕糧秦弊禅瓩砲弔い討蓮に楫鐔金請求権の行使は権利の濫用に当たり許されないものであるから,被保全権利を欠く本件仮差押命令の申立ては違法であり,被上告人に過失も認められるとして,弁護士費用相当額の損害各50万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容した。被上告人は,この控訴審判決に対して上告した。
(8) 上告人らは,平成18年6月29日,本件仮差押執行のために本件買収金の支払が遅れたことによる遅延損害金相当の損害賠償を求める本件訴訟を提起した。
(9) 前事件については,平成18年10月5日,被上告人の上告を棄却する旨の決定がされ,上記控訴審判決が確定した。
(10) 上告人らは,前事件の判決の確定を受けて,被保全権利の不存在を理由に本件仮差押命令の取消しを申し立て,平成18年11月1日,本件仮差押命令を取り消す旨の決定がされ,同決定は同月16日確定し,本件仮差押執行が取り消された。
(11) その後,上告人らは,自らの労力と時間を費やして,本件樹木の撤去作業を行い,これを廃棄した。
3 原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判断して,上告人らの請求をいずれも棄却した。
(1) 金銭債権の一部を請求する旨を明示して訴えを提起した場合には,訴訟物は当該一部に限定され,後訴において同一の訴訟物の残部を請求することが可能であるが,前訴においてその旨を明示しなかった場合には,1個の債権全体が訴訟物となり,同一の訴訟物につき別訴を提起した場合,前訴の確定判決の既判力に拘束される。
(2) 本件訴訟に係る損害賠償請求権と前事件反訴に係る損害賠償請求権とは,いずれも違法な保全処分に基づく損害賠償請求権という1個の債権の一部を構成するものである。そして,上告人らは,前事件反訴において被上告人に対し本件仮差押命令の申立てによる損害として弁護士費用相当額の賠償を請求するに当たり,これが不法行為による損害の一部であることを明示していたとは認め難いから,前事件反訴においては,本件仮差押命令の申立てが違法であることを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権の全部が訴訟物になっていたというほかない。そうすると,本件訴訟に係る訴えは,前事件の確定判決の既判力に拘束されるというべきである。したがって,前事件の確定判決において本件仮差押命令の申立てに基づく損害として反訴請求が認容された分を超えて,本件仮差押命令の申立てにより上告人らが受けた損害の賠償を認めることはできない。
4 しかしながら,原審の上記判断のうち,3(1)は是認することができるが,3(2)は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 上告人らが本件訴訟で行使している本件仮差押執行のために本件買収金の支払が遅れたことによる遅延損害金相当の損害(以下「本件遅延金損害」という。)についての賠償請求権と,上告人らが前事件反訴において行使した本案の起訴命令の申立て及び前事件本訴の応訴に要した弁護士費用相当額の損害(以下「本件弁護士費用損害」という。)についての賠償請求権とは,いずれも本件仮差押命令の申立てが違法であることを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権という1個の債権の一部を構成するものというべきであることは,原審の判示するとおりである。
(2) しかしながら,上告人らは,前事件反訴において,上記不法行為に基づく損害賠償として本件弁護士費用損害という費目を特定の上請求していたものであるところ,記録(前事件の第1審判決)によれば,上告人らは,このほかに,被上告人が,本件仮差押執行をすれば,上告人らにおいて長期間にわたって本件樹木を処分することができず,その間本件買収金を受け取れなくなるし,場合によっては本件土地が買収予定地から外される可能性もあることを認識しながら,本件仮差押命令の申立てをしたもので,本件仮差押命令の申立ては,上告人らによる本件土地の利用と本件買収金の受領を妨害する不法行為であると主張していたことが明らかである。すなわち,上告人らは,既に前事件反訴において,違法な本件仮差押命令の申立てによって本件弁護士費用損害のほかに本件買収金の受領が妨害されることによる損害が発生していることをも主張していたものということができる。そして,本件弁護士費用損害と本件遅延金損害とは,実質的な発生事由を異にする別種の損害というべきものである上,前記事実関係によれば,前事件の係属中は本件仮差押命令及びこれに基づく本件仮差押執行が維持されていて,本件仮差押命令の申立ての違法性の有無が争われていた前事件それ自体の帰すうのみならず,本件遅延金損害の額もいまだ確定していなかったことが明らかであるから,上告人らが,前事件反訴において,本件遅延金損害の賠償を併せて請求することは期待し難いものであったというべきである。さらに,前事件反訴が提起された時点において,被上告人が,上告人らには本件弁護士費用損害以外に本件遅延金損害が発生していること,その損害は本件仮差押執行が継続することによって拡大する可能性があることを認識していたことも,前記事実関係に照らして明らかである。
(3) 以上によれば,前事件反訴においては,本件仮差押命令の申立ての違法を理由とする損害賠償請求権の一部である本件弁護士費用損害についての賠償請求権についてのみ判決を求める旨が明示されていたものと解すべきであり,本件遅延金損害について賠償を請求する本件訴訟には前事件の確定判決の既判力は及ばないものというべきである(最高裁昭和35年(オ)第359号同37年8月10日第二小法廷判決・民集16巻8号1720頁参照)。
5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そこで,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
よって, 裁判官 全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 横尾和子 裁判官 泉徳治 裁判官 才口千晴 裁判官 涌井紀夫)
| 民事 | 23:33 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |

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